劇場版 カバさんのミシン

uncycloNana_shiのらくがき帳

かつてウィキペディアにあった良い写真たち

2017年ごろまで載っていた、魚の開きみたいなチャニング・テイタム

2014年まであった、イアン・マッケランの最高の写真

2016年まであった、徹子の魅力が一目でわかるお茶目でかわいい写真

 

以下、現在(2024/1/16)時点でまだ残っている良い写真

 

寛いでこのうえなくセクシーなミフネ。映画でこういう顔をもっとしてほしかった

壁の模様のせいでちびまる子の「ガビーン」みたいになってる丸谷。元々あの漫画に出てきそうな顔でもある

 

とし子の朝 1

「ジャニーズのいない紅白歌合戦は紅組の勝利に終わった。司会のH・Aがマイクを持った手で気のない半端な拍手をしながらかすかに嘲りを含んだ笑みを隣に立つM・Hに向けると、M・Hはクスリとも笑わずに静かに相手を見据えた。いつの間にかH・Aの背後に回っていたK・Hがものも言わずにH・Aを蹴倒して肩を膝で押さえつけ、短刀でその首を刎ねた。出血はほとんどなかった。そこまで血が巡っていなかったのだった。K・Hが呆けたような笑顔をうかべたままの生首を銀の盾にのせてうやうやしくM・Hに献上すると、初めてM・Hは笑った。瞳に熱を帯び、唇は豚の脂身を口にした直後のようにぬらぬらと光っていた。ズラウスキーの映画でソフィー・マルソーが見せるような、狂おしくきわめて甘美で艶めかしい笑顔だった。NHKのややバタ臭い顔つきのアナウンサーがヒッと小さな悲鳴を上げて床にへたり込み、そのまま小便を」まで書いたところでメメちゃんが夜泣きを始めたのでとし子は手を止めてこたつを出て隣の部屋に急いだ。

やがてメメちゃんの泣き声がやみ、遠くで除夜の鐘が聞こえ、「ゆく年くる年」が終わろうとしていたが、テレビの真正面に陣取ったカタ江はそのどれにも気づくことなく、食べかけの歌舞伎揚げとチョコパイの散らばったこたつ机に突っ伏して寝こけていた。とし子が戻ってきてこたつに足を突っ込もうとしたとき、元気のよい声が響いた。

「おはようございまーす!」

やけに長いことトイレに籠っていたミチローさんであった。セーターもポロシャツもズボンも脱いできて上半身裸に白い猿股一枚で、ミチローさんは再び「おはよーございまーす!」と声を張り上げた。

カタ江が目を覚まして「はあ?」とつぶやいた。

とし子が「やめて。メメちゃん寝てるから」と止めるのも聞かず、ミチローさんは陽気に歌い出した。

「あーたーらしーいーあーさがきた、きーぼーおのーあーさーだー」

それでいてラジオ体操をするのではなく、腕を大きく振り膝を曲げ伸ばしして、ヒンズースクワットのような動きをひたすら繰り返した。歌と動きが全くかみ合っておらず、最初こそ歌舞伎揚げをつまみながら見ていたとし子だったが、ついに居たたまれなくなって「もうわかったから!あけましておめでとう!」と叫び、カタ江に「ふざけるのが下手な人だから……」と言ってどうにかその場を収めようとしたが、やっと歌うのをやめたミチローさんが、今度はコマネチのような動きをしながら叫んだ。

「マリアンナ海溝!」

満面の笑顔だった。

「風邪ひくから服着て」テレビを消しながらとし子はつぶやいた。

(つづく)

 

ピーマンの肉詰め

ボナンザがなにか気がかりな夢から覚めてみると、自分が大きな芋虫になっているのに気づいた。手も足もなくなってしまったかのように思われた。まったく身動きが取れなかった。薄闇の中でかろうじて動かせる頭を必死で動かし、マガジンラックの横に転がっているデジタル時計の灯りを目にしてようやく少し冷静になった。午前四時。土曜日の早朝だった。昨夜うっかり居間のソファで寝てしまったのを思い出した。どうやら体がすっぽりソファにはまりこんでしまっているのだった。

昨日は仕事でしくじって上司にしこたま絞られ、帰りにドーナツを7つ買って、家に着くやいなや一気に5つ貪り食って発泡酒のロング缶で流し込んだところ、疲労のせいか急な血糖値上昇のせいか、強烈な眠気に襲われてソファに倒れこんだのだった。何度か寝返りを打っているうちに腕が体の下になってしまったのか、まったく感覚がない。さらに悪いことに、背中にクッションが密着し、さらにそのクッションが背もたれと座面の隙間にしっかり挟まっており、座面のずれたあとのくぼみに尻が完全に落ち込んでしまっていて、ほとんどテトリスのあがりのような状態になってしまっている。身体を動かせる余地がまったくない。

ソファは四角いかっちりしたつくりの二人掛けで、緑色のフェイクレザーの張られた固めの座面が心地よく、片方の肘置きを枕にして横になると、まるで測ったように体全体がすっぽりと収まるので気に入っていたが、あまりにぴったりしすぎていた。肉がぎちぎちに詰まって痛かった。

ドーナツを5つも食うんじゃなかった。ボナンザは深く後悔していた。ドーナツだけじゃない。いつも夕食を鍋いっぱいにつくって、最低でも二日に分けて食べようとは思うのだが、気がつくと全部食べてしまっているのだった。先週など腹を壊して反省して、具が梅干しだけのおかゆを土鍋いっぱいにではなく半分の量でつくったのに、それを食べつくしたうえにカップうどんを食いさらに酒まで飲んでしまった。自分の意志の弱さが恥ずかしかった。ここから無事抜け出せたら今度こそダイエットを始めようと心から思った。それなのに、もうすでに腹を空かせていた。おかゆのことを思い出したら、鶏肉と卵のおじやが食べたくなってしまったのだった。皮つきの鶏肉と卵二個のおじやに、できれば焼いたお餅ものせて食べたかった。おじやのことを考えると口の中に生唾がたまった。ボナンザは考えるのをやめたかったができなかった。そんな自分が本当に情けなかった。ボナンザはソファにぎちぎちに詰まったままそっと目を閉じてさめざめと泣いた。涎も垂らした。大粒の涙と涎はボナンザのでかい顔をつたってあっという間に滑り落ち、頭とソファの間で冷えていった。

そのとき急に足元が軽くなった。ずんぐりした体つきに似合わぬしなやかな動きで床に降りたペギーが、皮のたるんだ顔についた曇りのない目でボナンザを覗き込んで、長いべちょっとした舌で顔をなめた。「ペギー!パパの足元で寝てたのか」ペギーの舌のぬくもりを頬に感じて、ボナンザは再び落ち着きを取り戻した。泣いている場合ではない。今はこの事態をどうにか打開すべく動かないと。こんなしょうもない安物のソファを棺にしたくない。ペギーのためにも。自分がいなければこの子は一日だって生きていられないだろう。一刻も早くソファから脱出しなければならない。できれば尿意が襲ってくる前に。ボナンザは力いっぱいソファを蹴った。体の位置が少しずれた気がした。腕を動かそうとするとミシミシ言って怖かったが、勇気を振り絞って両腕を体の下から少しずつ引っ張り出した。足をばたつかせて寝返りを打とうとしたができなかった。

「ペギー!ペギー!」早朝なのを思い出して小声になりながらも、ボナンザは懸命にペギーに呼びかけた。よく見えなかったが、ペギーが耳を立ててこちらを見ているのを願った。「ペギー、抱っこだ、抱っこ」長い間があった。ペギーが首をかしげてじっとしているのをまざまざと感じた。「ペギー!抱っこだ、抱っこだよ、上がっておいで……」ボナンザは猫撫で声でそう呼びかけながら精一杯笑顔をつくり、両腕をできるだけ大きく広げようとしたが、ただ上に突き出されただけだった。ペギーが後ろ足で頭を掻く音が耳のすぐそばで聞こえた。「ペギー!このクソ犬!ジャンプ!ジャンプしろ!」ペギーがその場で大きくジャンプして床に着地したのがわかった。「バカ野郎!」ボナンザは叫んだ。直後、ペギーの爪が肩に食い込んだ。「違う、違う、バカは俺だ」ペギーは鼻をクンクン鳴らしながらボナンザの肩の下に執拗に前脚を突っ込んで引っ搔いた。背中の下のクッションが徐々に引っ張り出されるのがわかった。「ペギー!パパを助けてくれてるんだね!」ペギーがクッションをしっかりくわえてボナンザの背中から勢いよく引き抜いた。ボナンザは懸命に体をよじり、ソファの前のローテーブルの上を手で探った。テーブルに置かれたスマホに右手の指先がかろうじて触れ、ボナンザが会心の笑みを浮かべた途端、アラームが鳴り、スマホは振動しながらテーブルの上をすべり、フローリングの床の上にばたりと落ちた。追い討ちをかけるように、ペギーがその上に座った。世界はあまりにも無慈悲だった。

「クソッ!クソッ!畜生!」ボナンザは身も世もなく泣きながら拳で力いっぱいテーブルを叩いた。その拳がステレオのリモコンに触れた。

野宮真貴が軽快に歌いはじめた。ピチカート・ファイヴの『万事快調』、ボナンザの休日の朝を彩るお気に入りのこの曲も、今はなんの救いにもならなかった。「この野郎!人生なめてんのか!」ボナンザの声は怒りに震えた。まったく見当違いの怒りだった。野宮真貴にも小西康陽にも何の責任もなかった。人生をなめている奴がいるとすればそれはボナンザだった。ボナンザ自身にもそれはよくわかっていた。しかし、それがそんなに悪いことだろうか。ここまでの仕打ちに値するだろうか。ちょっと割に合わないんじゃないだろうか。ボナンザはまた自分のためにだけ涙を流した。ペギーがそのしょうもない涙を舌でぬぐってやった。ボナンザがペギーを抱き寄せると、ペギーは安心した様子で全体重をボナンザの腹にあずけてきた。

傷ついたボナンザの心にペギーの体のぬくもりがじんわりと沁みわたり、その肉球がリズミカルに彼の腹を揉んだ。ゆっくりと、しかし確実に便意の波が押し寄せてくるのをボナンザは感じた。「ペギー、悪いけどちょっとどいてくれないか」ペギーはどかなかった。そればかりか、ゆっくりした動作で首を伸ばしてクッションの下から何か拾い上げると、ボナンザの腹の上でうまそうにクチャクチャと噛みはじめた。カチカチになったビーフジャーキーだった。いつのだかわかったものではない。「ペギー!やめなさい!ペッしなさい!」ボナンザはあわててビーフジャーキーを掴むと力の限り引っ張った。ペギーは案の定抵抗し、無我夢中で、頭を激しく振り立てた。勢いあまって、ビーフジャーキーの先端がボナンザの頬をかすめ、鼻の穴に突き刺さった。ペギーはボナンザの鼻の穴を支えにしてビーフジャーキーを立て、前脚で器用に押さえてクッチャクッチャと噛み続けた。ビーフジャーキーがどんどん奥に入っていくのをボナンザは感じた。ほどなくして、ボナンザはあらゆる悩みから解放された。(おわり)

45分で書いた話

すきっ腹を抱えてあてどなく街をさまよっていた私は、とある和菓子屋の店先で次のような会話を漏れ聞いた。

「あそこの家はな、車庫つくるのに立派なイチジクの木を根こそぎ抜いてしもうたから祟りにあったんじゃ」

「次男さんも駄目じゃったしなあ」

そっくりの顔をした二人の老婆が、そんな話をしながらうまそうに渋茶を啜っていた。床几のへりには大きなモナカがふたつ手つかずのまま置かれていた。私は食い詰めていたが、それでもなるべく善良な者からは奪いたくないと思っていた。他人の不幸をスパイスにおやつを楽しむ目の前の二人はまぎれもなく邪悪な人間であると決めてかかった私は、モナカを一個すばやくかすめ取って逃げた。

走り出してから後悔の念が襲ってきた。ただの世間話じゃないか。大した罪ではない。か弱い老人のささやかな楽しみを勝手な判断で奪ってしまったのだ。そのような思いが足取りを遅くさせた。松平健に似た店主が棒のようなものを手に私を追ってきていた。そのすぐ後ろに婆さんの姿も見えた。かなり速い。驚くべきことに、モナカを盗られていないほうの婆さんもついてきていた。罪悪感と恐怖が私の脚をもつれさせた。「もはやこれまでか」私は走るのをやめてモナカを平らげた。もう口をつけてしまっていたし、返したところで許されはしないと分かっていたからだ。

捕まったのは初めてだった。私には二つの選択肢が与えられた。和菓子屋での生涯にわたる奉仕活動か、施設への収容であった。私は施設を選んだ。罪を悔いてはいたが、それでも一生縛られるつもりはなかったからだ。しかしすぐに後悔することになった。施設は実にひどいところだった。収容されてすぐに私は武器をすべて没収されてしまった。肌身離さず持ち歩き毎日丁寧に研いだ自慢の飛び出しナイフだった。続いて入浴を強制されたが、なんとも粗末なシャワーで水はひどく冷たかった。食事は土くれにしか見えず、味もほとんどなかった。次々に屈辱を与えて私のプライドを削いでいくつもりのようだった。しかし私はめげなかった。

雑居房の連中はみな私と同じくらい若く、中にはかなり血の気の多いのもいて、彼らが暴れる様子は私の士気を高めてくれた。荒々しいふるまいを好まない者はたいてい食い気に走っているか収集癖があるかで、見ているとそれなりに愉快ではあった。デブのジェリーは小石や光るもののコレクションをよく見せてくれたし、ロジャーは虫を捕まえるのが得意だった。

そんな中でひときわ異彩を放っていたのがステファニーで、男なのにステファニーと名乗っている時点でそうとう変わり者ではあるのだが、暇さえあれば念入りに髭を抜き、美しい長い髪を丹念にくしけずり、自らのケアに余念がなかった。その甲斐あって、彼はその名に恥じぬ艶やかな美しさを手にしていた。身のこなしも完璧で、彼がそばを通り抜けるとき、その腰つきに目をやらずにいられなかった。心なしか甘い香りもするようだった。シャンプーはみな同じはずなのだが。

ステファニーは三日分の食料と引き換えに誰とでも寝るという噂が立った。食料の交換は禁止されていたが半ば公然と行われ、性的接触についてはかなり厳しい罰則があったにも関わらず、看守の目を盗んで頻繁に行われた。夜になるとあちこちから苦痛と歓喜の入り混じったうめき声や叫び声が聞こえてきた。私は全身の血がたぎるのを感じながらも、毛布を抱いて固く目をつぶった。私はまだ女を知らなかった。本当の恋を知る前に他の連中のような冒険に出るつもりはなかった。しかし悪いことになぜだかステファニーは私を気に入っていて、何かと体に触れたり戯れに顔を舐めたりして、そのたびに決心が揺らぎそうになるのだった。

収容期間はそう長くないはずなのに牢名主同然に傍若無人にふるまっていた巨漢のジョーがある日突然おとなしくなった。すっかり牙を抜かれたようだった。抜かれたのが牙ではなく別のものであることをステファニーが教えてくれた。去勢されていたのだった。このことは私をひどく震え上がらせた。さらに恐ろしいことには、施設に収容された者は素行のよくない順にだいたい二週間以内に去勢されてしまうのだという。夜ごとのうめき声は性的行為そのものではなく疑似的なもので、お互いを噛みあって欲望を発散しているのだった。私はたまたま積極的に粗暴な振る舞いに及ぶことがなかったので後回しにされているのだろうが、そう遠くない日に処置されてしまうだろうとステファニーは言った。

脱獄は決して難しくなかった。日光浴の時間にちょっとした小競り合いがあり、看守がそれに気を取られているうちに私は日陰に移り、そうっと塀に上った。ステファニーが毛布を裂いて丸めて私によく似たおとりを作ってくれていたが、それを使う必要はなかった。塀を超える瞬間に私はふと振り返った。ステファニーが私をじっと見ていた。デブのジェリーも。早く行けというふうに揃って顎をしゃくって見せた。私は塀を飛び降り、音もなく着地した。しばらく行ってからまた振り返った。誰も追ってきていなかった。あまりの呆気なさにめまいがした。

めまいは暑さのせいでもあるようだった。走りながら何度かふらついた。小さな公園があった。地面には遊具が撤去された痕があった。木が一本もなかった。噴水を探したがなかった。木陰も、ベンチさえもなかった。家を持たない者の居場所はこうして奪われていくのだと思った。水が欲しかった。蛇口を探したがなかった。やがて、水たまりを見つけたら顔をつけて飲もうとさえ思いはじめた。しかしその水たまりさえなかった。私は途方に暮れた。真っ白な服を着た子供が向こうから歩いてきた。夏の死神は白い服を着てるんだろうか。

目がつぶれそうなほどまぶしい太陽の照りつける熱いアスファルトの上で、枯葉とセミの死骸がいっしょくたに踏みしだかれていた。セミは自らの油でからっと揚がっていた。私は枯葉の中から慎重にセミをよりわけて口に入れた。サクサクとして口当たりよく、わずかに水分も感じた。だんだん元気が出てきた。すぐそばのマンションの前の花壇に生えているなんだかよくわからない雑草をかじった。薄味の土くれのような食事に飽いた口に、草の青臭さと強い苦みがなんとも心地よかった。少し緩んでいる蛇口も見つけた。したたる水を舌にのせ、喜びに打ち震えた。ふと思いついて、先ほどのセミの食べ残しを花壇に埋めてやった。きっと良い肥やしとなって、このささやかなオアシスをさらに豊かにすることだろう。

仕上げに小便をかけているところへ、マンションの大家らしき爺さんが出てきて、「コリャ!」と叫びながら箒を振り回した。フォームがまるでなっておらず、私の敵ではなかった。私は箒をひらりとよけて塀に飛び乗りニャアと鳴いた。そして向かいの家の窓から注がれる視線に気づいた。まんまるのきれいな目だ。縞模様の美しい、なんとも素晴らしい毛並み。体の線の優美なこと。なんていい女なんだ!爺さんの箒の次なる一撃を尻に食らう前に、彼女とのデートの約束をとりつけることに成功した。去り際に窓を見やると彼女が確かにウインクした。生きるぞ!

(おわり)