劇場版 カバさんのミシン

uncycloNana_shiのらくがき帳

ゴンベズ・フィーバー 1

おばあちゃんは目の前を駆けている鶏の首を山刀でさっと刎ねた。首無し鶏はそのままおれのところへ走ってきた。おれは思わず泣きだした。「嫌だ、嫌だよお、おれもう帰りたいよ、ばあちゃん家くるといっつもこうなんだもん」 「怖がりだねお前は。じきに慣れ…

今日の気分

かつてウィキペディアにあった良い写真たち

2017年ごろまで載っていた、魚の開きみたいなチャニング・テイタム 2014年まであった、イアン・マッケランの最高の写真 2016年まであった、徹子の魅力が一目でわかるお茶目でかわいい写真 以下、現在(2024/1/16)時点でまだ残っている良い写真 寛いでこ…

とし子の朝 1

「ジャニーズのいない紅白歌合戦は紅組の勝利に終わった。司会のH・Aがマイクを持った手で気のない半端な拍手をしながらかすかに嘲りを含んだ笑みを隣に立つM・Hに向けると、M・Hはクスリとも笑わずに静かに相手を見据えた。いつの間にかH・Aの背後に回って…

……

ピーマンの肉詰め

ボナンザがなにか気がかりな夢から覚めてみると、自分が大きな芋虫になっているのに気づいた。手も足もなくなってしまったかのように思われた。まったく身動きが取れなかった。薄闇の中でかろうじて動かせる頭を必死で動かし、マガジンラックの横に転がって…

閉じ込められた男

45分で書いた話

すきっ腹を抱えてあてどなく街をさまよっていた私は、とある和菓子屋の店先で次のような会話を漏れ聞いた。 「あそこの家はな、車庫つくるのに立派なイチジクの木を根こそぎ抜いてしもうたから祟りにあったんじゃ」 「次男さんも駄目じゃったしなあ」 そっく…

小さなコートニーの話

アジズ・アバジャン博士と彼の研究チームは、通常の人の何倍ものスピードで成長する脳の開発に成功した。脳じたいは大人のこぶしくらいの大きさで、分厚い球形の強化ガラスでできた水槽に隙間なく充填された培養液に浸かっていた。ミニ脳の水槽には特殊な装…

らくがき2

私の根っこに多分あるもの

トマス・パパド伝 3

もう冬が近いというのにその夜はやけにじめじめして、体中がべとついている感じがした。おまけに頭の中でブンブンという虫の羽音のような耳障りな音がずっと鳴り続けていた。モイスト司祭はあまりに寝つかれないので仕方なくベッドから出て、スリッパをはく…

トマス・パパド伝 2

ほっそりと痩せた2匹の鹿を思わせる美しい母子が、手をつなぐ代わりに厚手のコットンバッグの持ち手を片方ずつ持って、なんとも睦まじい様子で、ガストンさんの食料雑貨店へと続く長い坂道を下っていく。一日に2回の食事の材料と刺繡糸を買いに行くのであ…

トマス・パパド伝 1

R村の人口は500人に満たないほどで、ほとんどが農業を営んでいた。毎朝早くに男たちはそれぞれの仕事道具を持って畑や森へ入っていき、日がとっぷり暮れてから戻ってきた。女たちが買い物をする店はだいたい決まっていて、みんな午前中にすませてしまって…

おさかな天国 2日目

翌朝目覚めるとすり美の姿はなかった。玄関には私の靴だけがあった。彼女は出かけているらしかった。そういえば昨日展望台で出会った時、すり美はカバンとかポーチとかいったものを一切持っていなかった気がする。ワンピースにもとくにポケットなどついてい…

おさかな天国 1日目

私の父方の家系は男が若くして狂い死にしやすいと祖母からよく聞かされて育った。事実、私の父は40を前にして台所で上等の革靴を喉に詰まらせて死んだ。その時私は5歳で、昼間は無邪気にアンパンマンポテトを食べ、縁側で虫眼鏡を使ってアリを焼いたりダン…

シモーヌの芋

暗く深いブローニュの森を抜けて、シモーヌは朝市への道を急いだ。黒い華奢な自転車をほとんど前のめりになって力強く漕ぐたびに、肩から下げた頭陀袋も大きく揺れた。朝市はどこももうほとんど閉まりかけていたが、シモーヌのお目当ては最初から、八百屋の…

今後の方針について

「サンディや、朝ご飯ができたよ」 キッチンからおばあちゃんが大きな声で私を呼ぶ。おばあちゃんは耳がよくないから、私がすでに目覚めていることも、掛け布団の下でいまカチリと音をさせたのにも絶対に気づいていないはずだ。おばあちゃんの足音が近づいて…