クマさんが冬ごもりの準備をしていると、狐さんがやってきました。「クマさんや、聞いたかい、リスの坊やのこと。きのどくにねえ」
「いや、知らないよ。どうしたって?」
「昨日からお家に帰ってないんだよ。リスのお母さんが大慌てであちこち探してる。坊やはどんぐりが大好きで、どんぐりをいっぱい持ってるひとのところへだったらすぐについて行っちゃうんだって」
「どんぐりならぼくも大好きだけれど」クマさんはつぶやきました。
「ひょっとしてきみのおうちに来てないかい」
「いや、見てないな。もし見かけたらすぐに教えるよ」クマさんは狐さんにそう約束してドアを閉めました。そして冷えた体を温めるためにベッドに入りました。クマさんは枕元にあるテディベアのぬいぐるみに話しかけました。「リスの坊や、どこでどうしているのやら、心配だねえ」
そうして寝床の中でいろいろ考えました。「そういえば、きのう家のドアをちゃんと閉めたっけ?もしリスの坊やが、ぼくの知らないうちに中へ入り込んでいたら?ぼくのどんぐりの貯えをきっと見つけただろう。昨夜ぼくはおなかが空いて、貯えをちょっとつまみ食いしたけれど、あのときはずいぶん寝ぼけていたな。坊やがどんぐりの山の中に隠れていて、ぼくがうっかりどんぐりといっしょに坊やも食べちゃっていたらどうしよう!」
気になりだすともう眠れません。クマさんは慌てて飛び起きてどんぐりの貯蔵庫へ走り、どんぐりの山を崩して隅から隅まで探しました。リスの坊やはいませんでした。「やっぱり気のせいかな」クマさんはホッとして寝床へ戻りかけ、そしてはたと気づきました。「とちゅうの廊下で踏んづけたかも!」クマさんは四つん這いになって目を皿のようにして、寝床まで続く廊下をよくよく調べました。リスの坊やが廊下でぺちゃんこになって見つかることはありませんでした。念のためお台所もよく探しました。やっぱりいませんでした。「寒いからベッドの端っこに隠れていて、ぼくがうっかりお尻で押しつぶしちゃったかも!」掛布団とベッドのシーツをはぐってみました。ベッドはきれいでしみひとつありませんでした。でもクマさんは安心できませんでした。居間の家具という家具をひっくり返しました。坊やはいませんでした。「そうだ、トイレとお風呂も探してみなくちゃ。ぼくのおうちのトイレもお風呂もすごく大きいから、坊やがうっかり落っこちているかも」クマさんの体はふるえ、目にはクマができていました。
そのときクマさんのお家のドアを叩くものがありました。狐さんでした。狐さんはほっとした様子で笑いながら言いました。「リスの坊やが泥だらけでお母さんのところへ戻ってきたよ。なんでも、どんぐりの隠し場所を忘れちゃって、あちこち掘り返して探しているうちに道に迷っちゃったらしいんだ。まったく人騒がせなことだよ。いや、ほっとした、ほっとした」
「それは……それは良かったねえ、本当によかった。貯えをなくしちゃったのはかわいそうにね。ぼくのどんぐりを少し分けてあげるといいよ」クマさんは貯蔵庫から両手いっぱいにどんぐりを抱えてきて、狐さんに渡しました。
「そんなにたくさん、いいのかい。少しでいいんだよ。リスさんはとっても小さいんだから」
「いいんだ、いいんだ、あげてくれ」クマさんはそのまま、たくさんのどんぐりをリスさんにあげてしまいました。正直なところ、当分どんぐりを食べる気にはならなかったのです。
狐さんが帰ったあと、クマさんはベッドに戻って、床に落ちたテディベアを拾い上げて話しかけました。「やあ、今日はすごく大変だったな。とっても疲れちゃった。……本当に、本当に怖かった」クマさんはちょっと泣きました。そしてテディベアをぎゅっと抱いて、ようやく安心してぐっすり眠りました。バニラのソフトクリームをいっぱい食べる夢を見ました。(おわり)
(話してる最中は我ながらいい話だと思ったんですが、一晩経って書き起こしてみると、ちょっと犯罪者の心理っぽいですね……なぜクマさんはリスさんと直接話さないんだろう?)