劇場版 カバさんのミシン

uncycloNana_shiのらくがき帳

今後の方針について

「サンディや、朝ご飯ができたよ」

キッチンからおばあちゃんが大きな声で私を呼ぶ。おばあちゃんは耳がよくないから、私がすでに目覚めていることも、掛け布団の下でいまカチリと音をさせたのにも絶対に気づいていないはずだ。おばあちゃんの足音が近づいてきて、ドアノブに手を触れるまで私は待った。そして掛け布団越しに、胸の真ん中より少し左寄りのところを狙って撃った。ドアに思いのほか大きな穴が開いたので私はびっくりした。そして、壊れたドアを右手で押しのけるようにして、帽子をかぶった背の高い男の人が入ってきたのにはもっとびっくりした。男の人は帽子をとって、大粒のトウモロコシみたいに光る薄黄色の歯を見せて笑った。

「マカンダルさん!」

おじいちゃんがドイツで拾ってきた古い拳銃をベッドのわきに投げ捨てて、私はマカンダルさんに駆け寄り、丈夫な木の幹みたいな腰を思い切り抱きしめた。よその国のスパイスの香りがした。大好きな大きな掌が私の頭をなで、頬に触れた。

「困った子だな。シャツが台無しじゃないか」

マカンダルさんのすてきなワイシャツの、だらりと垂れ下がった左の袖が少し裂けている。マカンダルさんに左腕がなくてよかったと初めて思った。マカンダルさんはむかし左利きで、早撃ちが得意だったが、それでもおばあちゃんの鉈のほうがずっと早かったのだった。

「お前たち、さっそく遊んでいるのかい。じゃあちょっくら私はザナドゥへ行ってくるよ」

おばあちゃんのスクーターの音が聞こえなくなってから私たちはキッチンへ向かった。紫色の口紅がべっとり付いたマグカップの底にはたばこの吸い殻がいくつも詰まっていて、そんなもののすぐ横で、お好み焼きがまだかすかに湯気を立てている。一目見てすぐわかるくらいたくさんの白髪が生地に混ざっている。マカンダルさんはお好み焼きを四つにたたんで窓の外に投げ捨て、フライパンをよく洗ってから、薄くてもちもちしたパンケーキを何枚も焼いてくれた。それを二人で食べながら、私たちはもっといいやり方を話し合った。マカンダルさんは私をやさしく諭した。得物を見せないようにしたのは賢かったが、相手をよく確認して確実にやらなければいけないと。それから、鍋の中で貝をいじめる方法を教えてくれた。きょう海へ行って試してみようと誘われたが、私は断った。とりあえずはやり方を知っているだけでいい。十分時間をおいて、確実にやらなければ。それに何といってもきょうはマカンダルさんに訊きたいことが他にたくさんあるのだ。